手の外科とは
人間の手は限られた領域に骨、関節、筋肉、神経、血管が複雑に配置され、それらが精巧なメカニズムで調和することでその機能を発揮しています。それゆえ、ほんの小さなトラブルでも不自由な経験をされた方は多いかと存じます。手に関わる疾患は100種類以上存在し、その治療には専門的な知識が必要です。
代表的な病気としては、大きく2つに分けることができます。一つは外傷によるもので、たとえば骨折、脱臼、靭帯損傷、腱損傷などです。もう一つは変性や使いすぎなどからくる慢性疾患で、たとえば手根管症候群、ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)、ばね指(弾撥指)、ガングリオン、母指CM関節症、へバーデン結節などがあげられ、当院では必要に応じて手術療法を行っております。
外来でよく見られる手の疾患
ばね指
指が動かしにくい、動かそうとするとひっかかるようなバネ現象が見られます。進行すると指は曲がったまま伸びなくなります。中指と母指に多くおきますが、どの指にも起こりえます。更年期・妊娠時・産後の女性に多いですが、男性にも起こります。糖尿病・透析患者にも多くみられます。
原因は指を曲げる屈筋腱が腱鞘(トンネル)の部分で腫れて、引っかかってしまうことで生じます。
ばね指の治療は炎症が軽い場合は、急性期の安静とその後のゆっくりしたストレッチングで症状が軽快することがあります。症状が持続する場合は、局所麻酔剤とステロイド剤の混合液を腱鞘内に注射します。注射の効果は大きいですが、症状が重い場合はその効果も長くは続かないため、注射を繰り返すこと場合もあります。一方、ステロイド剤は単に炎症を抑えるだけではなく、組織の萎縮を来すことがあり、注射を繰り返すと腱そのものが萎縮、すなわち細くなってしまう危険性があるため、通常3-4回の注射で改善しない場合は手術を考慮しなければなりません。手術は狭くなっている腱鞘を切離します。
手根管症候群
手の外科で扱う数多い疾患の中でも、腱鞘炎に次いで多く見られる疾患が手根管症候群です。ここでは手根管症候群の原因や症状、治療方法、当院での治療方針について説明します。
手掌の付け根に、骨と靭帯に囲まれた手根管という部分があります。このトンネルのような部分を9本の腱と1本の神経(正中神経)が走っています。腱鞘炎などで腱周囲の滑膜が腫れて正中神経が圧迫されると、手指がしびれたり痛みが出て、やがて母指を動かしにくくなります。これが手根管症候群です。
症状は夜中や明け方に強く出ます。やがてお箸を使ったり、字を書いたりが不便になります。更年期の女性に多くみられるためホルモンバランスの異常との関連が推察されています。手首のところで神経が圧迫されることが原因であるにもかかわらず、肘や肩の痛みやだるさを訴える方もおられます。
初診時の診察で診断はつきますが、必要に応じてレントゲン撮影やMRI撮影あるいは筋電図検査を行う場合もあります。
治療は初期はステロイド剤と局所麻酔薬の混合液を手根管内に注射したり、ビタミン剤の内服が効果的です。安静にしていると通常は数回の注射で症状は改善します。しかし、続けて行った数回の手根管内ステロイド注射でも効果が得られなかったり、筋の萎縮が進行してきた場合は手術治療の対象となります。
手術は手根管を被う靭帯を切開して、手根管自体の容積を増大させて正中神経への圧迫を取り除くことです(手根管の開放)。これには、内視鏡によるものと、切開するものに分かれます。
へバーデン結節
へバーデン結節は中高年女性に好発する手指第1関節の変形性関節症です。病因は未だ明らかではなく、遺伝的素因、骨代謝、手の使用頻度などの物理的要因、末梢循環血流の不良、女性ホルモンによる影響など複数因子の影響を受けるとされています。通常、進行性の多発病変であり、全ての手指に発症します。関節リウマチではないかと心配されて来院されるケースもありますが、まったく異なる疾患と考えられています。診察時の状態とレントゲン検査でおおむね診断可能です。さらに症状が進行した状態では関節周囲に水ぶくれ(粘液脳腫)ができてしまい、爪の変形が生じる場合もあります。
治療方針はテーピング、内服薬、関節内ステロイド注射、装具療法などの保存療法が行われています。症状が強く、日常生活に支障が出る場合には関節固定術、関節形成術などの外科治療を選択されますが、治療成績が安定している関節固定術が実施される場合が多いです。
ブシャール結節
ブシャール結節も中高年女性に好発する手指第1関節の変形性関節症です。種々の原因によるものといわれておりますが、最近は更年期に代表される女性ホルモンバランス変動が指を曲げる屈筋腱(浅指屈筋腱)の腫脹や滑動性低下による緊張増加をきたして第2関節に負荷がかかるためではないかという意見があります。この疾患も関節リウマチと症状が似ているため、心配になって受診されるケースがあります。診察時の状態とレントゲン検査でおおむね診断可能です。
治療方針はテーピング、内服薬、関節内ステロイド注射、装具療法などの保存療法が行われています。症状が強く、日常生活に支障が出る場合には人工関節置換術をはじめとした関節形成術などの外科治療を選択されますが、最近はそれに先立って緊張した腱を切離する手術が行い効果をあげております。
母指CM関節症
物をつまむ時やビンのふたを開ける時など母指(親指)に力を必要とする動作で、手首の母指の付け根付近に痛みが出ます。 進行するとこの付近が膨らんできて母指が開きにくくなります。
母指の付け根のCM関節のところに腫れがあり、押すと痛みがあります。母指を捻るようにすると強い痛みが出ます。X線(レントゲン)検査でCM関節のすき間が狭く、骨棘があったり、ときには亜脱臼が認められます。
消炎鎮痛剤入りの貼り薬を貼り、CM関節保護用の軟性装具を付けるか、固めの包帯を母指から手首にかけて8の字型に巻いて動きを制限します。
それでも不十分なときは、痛み止め(消炎鎮痛剤)の内服、関節内注射を行います。
痛みが強く、亜脱臼を伴う高度な関節の変形や母指の白鳥の首変形が見られる時には、関節固定術や大菱形骨の一部を切除して靱帯を再建する切除関節形成術などの手術が必要になります。
肘部管症候群
肘部管症候群とは、肘で尺骨神経に圧迫や牽引などが加わって、生じる神経の障害をいいます。肘の内側で神経(尺骨神経)が慢性的に圧迫されたり牽引されることで発症します。初期は小指と環指の一部にしびれた感じがでます。麻痺が進行すると手の筋肉がやせてきたり、小指と環指の変形がおきてきます。肘の内側を軽くたたくと小指と環指の一部にしびれ感がはしります。また肘の変形がある場合には、X線(レントゲン)検査で肘の外反変形や関節の隙間の狭いことがわかります。
薬物の投与・肘の安静などの保存療法をまずは行います。これらの治療が無効の場合や麻痺が進行しているときには、尺骨神経を圧迫している靱帯の切離やガングリオンの切除を行います。神経の緊張が強い場合には、骨をけずったり、神経を前方に移動する手術を行います。肘の変形がある場合には(外反変形など)、変形を手術的になおす場合もあります。
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
動かすと肘の外側が痛く、腕を捻ったり伸ばしたりすると痛みは増強します。タオルを絞ったりすることがつらくなります。手首や指を伸ばす伸筋群が上腕骨に付着している部分が炎症を起こしていると考えられています。テニス肘という名前がついていますが、テニスとは無関係におきます。中指を伸展させた状態で他動的に屈曲させたり、手首を他動的に屈伸させて痛みが誘発されればテニス肘と診断できます。
保存的治療は安静・湿布とテニス肘洋バンドの装着です。テニス肘用バンドはスポーツ店や病院で手に入ります。また、麻酔薬入りステロイド剤の局所注射も効果があります。このような治療の抵抗例に対して手術を検討します。
ガングリオン
手首の甲、手首の内側、手掌にグリグリとした膨らみができたりします。多くの場合が痛みはありませんが、手首の甲にできると神経を圧迫するため手をついて立ち上がるような時に痛みがあります。関節包や腱鞘から発生すると考えられています。
痛みを伴わない場合は放置しておいてもかまいません。神経の圧迫症状が出る場合は、ゼリー状内容物を抜き取ったり、ステロイド剤を注入したりします。繰り返す場合は手術により摘出します。手掌にできたガングリオンはバネ指の原因となる場合が多く摘出します。いずれも短時間で行える手術で入院は必要ありません。
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